基礎知識

神話と神

歴史書でありながら神話を内包する書物

神道にはキリスト教の「聖書』やイスラム教の「コーラン』のような教典がない。それでもあえて挙げるとするなら、『古事記』と「日本書紀」になる。この2冊は合わせて「記紀」と呼ばれる歴史書で、どちらも8世紀に成立した。

2冊とも始まりは世界の創生、つまり神々の時代から書かれている。そして天皇家が統治する時代まで続いていく。大筋はだいたい同じだが、全3巻のうち、3分の1が神話に割かれている『古事記』に対し、「日本書紀』は全30巻のうち、神話に関する記述はたった2巻分、全体の15分の1しかない。

同じ日本の歴史について書かれた書物が2冊あるのには理由がある。まず「古事記』は物語性が強い。これは皇室が神々に連なることを表すために、神話部分に多く記述を割いたからだ。天皇家の正当性をアピールするために書かれた国内向けの書物といえる。いっぽう「日本書紀』は神話部分が少なく、客観性をもたせるために異説が多く取り入れられている。これは日本の正史を国外に伝えるための書物として編纂されているためだ。

記紀の327柱と信仰によって増える神

「記紀」に関連する神社はいくつか存在する。宮崎県の天岩戸神社もその一つで、神話で天照大神が身を隠したとされる天岩戸が御一神体としてまつられている。和歌山にある日前神・·園懸神宮には、天岩戸に篭もった天照大神を呼び出すためにつくられた鏡が一つずつ納められている。さらに名古屋にある熱田神宮には、三種の神器として知られる草薙剣が御神体として存在する。このように神話との直接的なつながりを感じさせる神社は各地に点在する。

しかし「記紀」に登場する神は、じつは意外に少ない。別冊歴史読本の『日本古代史「記紀・風土紀」総覧』によれば、「古事記』と「日本書紀』合わせて327柱の神しか名前が出てこないのだ。これが神の総数なら「八百万の神々」には程遠いように思える。それもそのはずで、現在日本には8万あまりの神社が存在するが、そのすべてに327柱の神々が振り分けられているわけではない。じつは「記紀」に登場しない神のほうが、まつられている数はずっと多いのだ。

たとえば全国で最もまつられている神社が多いとされる八幡神。そして天神も「記紀」にはいっさい登場しない。ほかにも靖国神社などはこれまで日本人が戦ってきた戦争の戦死者、戦没者を英霊としてまつっており、それを神々と数えると246万柱にもなる。

こうしてみると日本の神々は3種類に分けられる。一つ目は「記紀」に登場する神話に根差したもの。二つ目は八幡や天神など記紀神話に登場しないもの。三つ目が靖国神社のように人を神としてまつったものだ。

このように、「記紀」に登場する神こそ唯一絶対の信仰の対象とするものではないところが、神道の特徴だ。神は信仰を強制せず、誰が誰を神としてまつろうと、それはまつる側の自由。まさに神道は「人の数だけ信仰がある」という言葉を体現しているといえる。次の項目からは、その主だった信仰を見ていきたい。

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